ブログ・オブ・ウォー アーカイブ

僕らの仕える自由の国アメリカへ

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最後にご紹介するのは、リー・ケリー中尉がイラクのアンバル州中心部で書き続けているブログ「Wordsmith at War」です。戦う兵士たちは確かに変わってしまうが、それでもアメリカは変わらぬアメリカでいてほしいと、ケリーは「僕らの仕える自由の国アメリカへ」というタイトルで記しました。

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だけど頼むから変わらずにいてくれ。僕らは変わってしまったのだから。

その大陸から出るんじゃない。家を売ってはいけない。犬を手放してはいけない。

その醜さも美しさもそのままに、今のアメリカ人でいてくれ。まばゆい高層ビルも、洪水に飲み込まれた都市も、会社で出世の階段をのぼっていく奴も、生活保護の列に並ぶ奴も。みんなそのまま生きて、与えられた自由を楽しむんだ。僕らはくだらない観念論を振りかざす人間とは違う。君たちが望む場所で働くことができて、望む人に投票し、望む人とつき合うことができるのは、すべて僕らがイラクに送られたおかげだなんて、そんなこと言ってるんじゃない。だけど、いいかい? 君たちがそういう権利を獲得するまでになったのは、長い年月のあいだ多くの人々が努力してきたおかげだ。そして僕らがここで働いていることも、その努力の一環なんだよ。

だから僕らのことを忘れないでくれ。僕らは君たちのことを忘れられないのだから。

僕自身が歩くパラドックスなんだ。僕は仲間の兵士たちを信じているし、軍で働くことを誇りに思っている。カントリーミュージックも嫌いだ。だけどね、もし今、こういう場所で「ゴッド・ブレス・ザ・USA(※)」を聴いたら、あるいはあのトビー・キースの歌(※※)を聴いたら、僕は赤ん坊みたいに泣き出すだろう。そして鳥肌が立つほどの愛国心に駆られるに違いない。基礎訓練の卒業式のときもそうだった、軍隊生活に足を踏み入れ、軍隊の食事や酒や寝床を二ヶ月間経験して、さあこれからだというあの感動。

だけど僕は、自分の子供に同じことをやらせようとは思わない。僕で打ち止めにするかもしれない。僕自身これが終わったら、学校に入りなおして必死でライターの道を目指し、山羊ひげなんか生やしてリビングにどっしり腰かけて、今度アメリカが戦争に行くときには口先だけの革命家になっているかもしれない。ニュースで見かける兵士のためにブログを書き、彼らを支援し、VFWに入って政治情勢を論じ、子供たちに解説し子供たちを守る。そして、そう甘っちょろいものじゃないのに往々にして当然と思われている民主主義の幸せの中で、万人に与えられる自由と正義のもとで生きていくんだ。

そう、それが今の僕のプランだ。だけど何事もそうであるように、僕の計画もすぐ変わる。

また書きます。
お気遣いありがとう、アメリカの皆さん。

                                          (抜粋)

※ カントリー歌手リー・グリーンウッドが歌う愛国歌
※※同時多発テロ後にヒットした「怒れるアメリカ人」

ブログ・オブ・ウォー 僕たちのイラク・アフガニスタン戦争ブログ・オブ・ウォー 僕たちのイラク・アフガニスタン戦争
マシュー・カリアー・バーデン


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朝日新聞に書評が掲載されました!

『ブログ・オブ・ウォー 僕たちのイラク・アフガニスタン戦争』

マシュー・カリアー・バーデン 編著
島田陽子 訳

定価:1995円(税込み)


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戦争は戦争でしかない

7/15の朝日新聞に書評が掲載されます!

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第八章 帰郷

愛する人が戻ってきたとき、たいていの人はすべてが終わったと安堵します。
しかし兵士にとって帰還とは、戦争から無事に生還して終わりというものではありません。
「This Is Your War」のマイケル・デュラン三等軍曹は、帰国して再び普通の状態に戻ることがいかに難しいか、自身のブログに綴っています。

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僕はハウ通りに面した大きな窓からぼんやり外を眺めていた。
いつもの道路。車。職場に向かう人、仕事帰りの人。母親は子供を乗せて家に帰る。何も爆発しない。自動車爆弾(VBIED)はここにはない。簡易爆弾(IED)もない。これが普通の世の中だ。この場所には死の危険などない。

嘘だらけの世界だ。

「ねえマイク、あなたはこれからどうしたい?」。サンディが僕に訊ねた。
僕はサクラメントの退役軍人センター(※)にいた。一週間前に初めて予約を入れた。
僕は自分を修復しなければいけない、だからここに来てるんだ。故郷に戻って一ヶ月ちょっと経っていた。もうここはイラクじゃない。僕はしばらくじっと、青いブラインド越しに窓の向こうを見つめていた。頭の中は空っぽだった。僕はどうしたいんだ?

いきなり様々な光景が稲妻のように脳裏を掠めた。
口にピストルをくわえたドク。野戦病院(CASH)で黒い遺体袋の中に横たわったデュプランティエ。その目はどんより濁り、スーパーに並ぶ死んだ魚みたいだった。衛生兵たちは彼の喉に管を挿し、なんとか生き返らせようとした。だけどほんとは、もう助からないとわかっていたのだ。狙撃兵の銃弾に胸を打ち砕かれたその瞬間に、彼は死んでいたのだから。僕は吐き気を催し、手で口を押さえながらよろよろとゴミ箱に近づいてかがみこんだ。戦闘用手袋についた吐しゃ物と胃酸の臭いは、任務が終わるまでずっと消えなかった。

「どうしたいって?」。ようやく僕が口を開いたとき、道路のどこかで十八輪のトレーラートラックがエンジンブレーキをかけて停まる音が聞こえた。僕は身体を左右に振りながらその質問を考えた。IEDの爆発する映像がまた頭に浮かんでくる。中尉の乗ったジープが、茶色と黒の混じった砂塵の雲に飲み込まれていく。
「俺は、だから、普通に戻りたいんだ。何が普通だか知らないけど……俺が普通だったことなんかあったのかね」

「とにかくな、ふざけた真似はよしてくれ、な? そこをまずはっきりしとこう」。僕は言った。「俺はさ、あんたなんかよりよっぽど大勢の人間を撃ち殺してんだよ。だから俺に向かって〝義務と名誉と祖国〟とかっていうおちゃらけはやめてくれ。もうたくさんなんだよ……ついでに教えてやろうか? そんなもの存在しないのさ。戦争は戦争でしかない。でな、何がどうなろうが構わねえのが戦争なんだよ」

僕はもう一度窓の外へ目をやった。でもそこに見えるのはハウ通りじゃない。僕の目に映っているのはルート・バーノンだった。僕らが毎日毎日、IEDを探して歩いた道だ。
しょっちゅう僕はうんざりして、ヘルメットを脱ぎハンヴィーのフロントガラスに投げつけた。さっさとIEDが爆発すればいいと思った。いつまでもびくついているより、一気にケリをつけてくれないか。

殺せよ、くそったれ、いいから殺せってんだ。この宙ぶらりんの状態を終わらせちまおうじゃねえか。僕はいつも思っていた。

……それで、これからどうするというんだ?

「俺はうちに帰りたい」

                                          (抜粋)

※退役軍人センター
復員軍人のためのカウンセリングセンター


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僕は君のもとに戻れない

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第七章 帰らぬ者


イラク派兵任務を二度満了し、三度目のイラク派兵に向かう途中で命を落としてしまったエリック・フリーマン。彼は、自分にもしものことがあったら開くようにと、出立前に手紙を残していました。世を去ったときにかぎり読むようにと書かれたその最後の手紙が、「Blackfive」で公開されています。

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ティアラ、

元気でやってるかな。君が今この手紙を読んでいるとすれば、僕は君のもとに戻れないということだ。でも元気を出してくれ。お願いだから僕たちの運命を哀れんだりしないで。ふたりで一緒に過ごせた幸せを思って、そして僕は死ぬまで君を愛していたってことを忘れないで。僕を思い出すときには、こういう結末でなかったら、なんて考えず、僕のために笑顔になってほしい。そして僕たちが過ごした楽しい時間を思い出してくれ。君が僕のことを思って悲しくなるのは嫌だ。僕は君に、僕たちがどれほど愛し合っていたか、どんなふうにふたりで楽しく過ごしたかをみんなに話してほしいんだよ。僕は人から嘆かれるような人生を送っちゃいないんだから。僕の人生は、僕の愛する人たちを幸せにするためにあるんだ。ティアラ、わかってるかい、君は本当に素晴らしい人なんだよ。君のおかげですべてが価値あるものになった。僕にとっては誰より素晴らしい、誰より僕を支えてくれる、愛情にあふれる人だった。君のように僕の胸をときめかせる人はほかに誰ひとりいない。さあ、でももうこの辺にしておこうね。僕が君に望むことは三つだけ。僕の人生と僕たちふたりの愛を祝福してくれ。僕の人生が終わっても君の人生を終わりにはしないで。そして忘れないで、僕は今でも君を愛している。僕たちからその愛を奪えるものなど何ひとつないんだよ。

                            エリック

                                          (抜粋)

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「私の」兵士ではないとわかって安心した

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第六章 銃後を守る英雄たち

この章は、母国アメリカで兵士たちの帰りを待つ家族や恋人たちが書いたブログが収録されています。

夫の帰国を間近に控えていたウェンディ・マーは、夫がアイオワ州兵としてアフガニスタンに派兵されていた十八ヶ月のあいだに学んだことを、「Biting Their Little Heads Off」に綴りました。

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私はこの一年で多くのことを学んだ。
切ない思いとは何かを知った。愛する人と長いあいだ離れていると、本当に心にぽっかり穴が開くものなのだ。これは単なる比喩的表現ではない。
ブラックユーモアがどういうところから生まれるものかもわかった。普通の人がげっそりして首を振りそうな状況でも、私は笑えるようになった。ブラックユーモアで正気が保てるときもあるらしい。
乗り越えなくてはいけない問題が何かわかっているつもりでも、憂鬱を撥ね退けられないときがあるのも知った。
恐怖も知った。安全な自分の家の中にいても、恐ろしく不安になることもあるのだと……電話のベル、ドアがノックされる音に、私たちは脅える。永遠に終わらないように思える時間というものがあるのも知った。
罪悪感や自己嫌悪も知った。「私の」兵士ではないとわかって安心し、次の瞬間、ほっとした自分が嫌になる。代わりに私の知っている、大切な誰かが、私のいちばん恐れている悪夢に突き落とされているというのに。

見ず知らずの人の親切が信じられないほどの効果を与えてくれることも学んだ。リン、あなたにはどんなに感謝しても足りないくらいよ。
「ねえ、私がここにいるよ、私はあなたのことをちゃんと考えているよ」と誰かが言ってくれるだけで、力が出てくるものだとも知った。
「何か私にできることがあったら」という言葉は、何を言えばわからないときに発せられるおざなりの文句ではないことも知った。それに、何も口にしないまま行動で示してくれる人がいることも……

                                          (抜粋)

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ファルージャ戦

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ニール・プラカシュ陸軍中尉――コールサインは「アヴェンジャー・レッドシックス」――は、彼のブログ「Armor Geddon」で、戦車・歩兵・兵器が総動員されたファルージャ戦の様子を描いています。彼は司令官の指示に従い、テロリストが集結していると見られる建物に爆弾を投下させる任務に就きました。

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ヒュルルル――ドーン、ヒュルルル――ドーン、ヒュルルル――ドーン。

「すんげえ! 見ろよ! 嘘みたいだ」。僕はぎょっとしていた。爆発はビルの五階から十階くらいの高さまで上がっただろう。巨大な灰色の雲がもくもくと立ち昇り、まるで火山が噴火したようだった。でも僕がぎょっとしたのはそこではない。その爆発で、人の身体がまっすぐ空へと吹き上げられたのだ。映画でやるのなんかとはまるっきり違う。映画だと爆発で宙に吹っ飛ばされた奴はばたばた手足を振り回す。そんなんじゃなかった。子供がアクション映画のキャラクター人形を空に向かってぽーんと放り投げるような感じだ。手も足もぴくりとも動かない。ただまっすぐに空に昇り、外側に向かって落ちていく。ディスカバリー・チャンネルでよくやってる、早回しで映した開花の映像みたいな。現実とは思えなかった。爆発ごとに三人から五人のテロリストが空に吹き飛ばされた。

ヒュルル――ドーン。ヒュルルル――ドーン。ヒュルルル――ドーン。

こんなおかしな光景は見たことがなかった。まったくもって現実とは思えない。人間の身体があんな動きをするなんて考えられなかった。だから実際にそれを見ると、すごくシュールな気分だった。

「レッドシックス、こちらラムロッド・エイティーン。状況は?」
「大当たりです。完璧でした」
「もしまだ残ってるやつがいたら、再度要請しろ」

すげえ。圧勝だぜ。でもまだ敵は残っているだろう。やるしかない。

「ラジャー。こちらレッドシックス。あと十発頼みます。繰り返します、あと十発です」

そしてさらに撃ち込まれる。
煙の中から敵が三人、よろよろと出てきた。ひとりは片腕で腹をかかえ、もう一方でAKの吊り紐を掴んでいる。ヒュルルル、ドーン。三人とも消えた。

「こりゃすげぇ!」。P三等軍曹が声を上げて笑った。「すげえ。今の、もろに頭に落ちたぞ」

一発は僕たちの左側の巨大なホテルらしき建物に命中した。

「おい! あの屋上にひとり残ってた」とP。その一発が建物に落ちたときには、まるで神本人がおりてきて、その男にぱしっとビンタを喰らわせたように見えた。軌道に放たれたロケットみたいに、男は水平に飛んでいった。そしてもうひとり、まっさかさまに落ちた奴がいた。地面にぶつかって跳ね返り、六十メートルくらい舗道を飛んでいく。P三等軍曹は見るものすべてを報告し、僕は砲兵隊のみんなに状況を伝えていた。

                                          (抜粋)

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仕事なんだ、悪く思わないでくれ。

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第五章 戦士たち

この章には、実戦の様子が細かく描写されたブログが集められています。ミリタリーブログならではの、アドレナリン満載の好戦的なブログは後にして、まずはチャールズ・ジーゲンファス大尉が「自分が初めて殺した男」について書いた「From My Position...On the Way!」からご紹介します。

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初めて殺した男のことが気になって仕方なかった。人の命を奪ったとか、「人殺しは悪である」的考え方とか、そういうことからじゃない。そうする権利(自己防衛)がなかったというのでもないし、(五歳の子が必ず言うように)「あっちが先にやった」からというのでもない。

初めて殺した男の目を、撃つ瞬間に僕は見てしまったのだ。まともに、その目を。実際そこを狙っていたんだが、そういう問題じゃない。僕がそこに見たのは殉教者の燃える思いではなかった。そこに怒りはなかった。名誉も復讐心も感じられなかった。僕がそこに見た表情、そこにあった感情は、「あ、しまった!」としか言い表しようのないものだったのだ。

その男は銃一挺で銃撃戦に臨んだ。僕は三十挺持っていた。彼の弾丸は九十発くらいだった。僕は三千発以上持っていた。彼の武器は自動小銃。僕はピストルにライフルにマシンガン、グレネードランチャーを、どれも数挺持っていた。そのうえ僕には、彼にないものがあった――十六人の仲間だ。

僕が引き金を引くと引き金が撃鉄を起こし、撃鉄が撃針にぶつかる。点火装置と弾薬に火が点き、弾丸が発射され、そして彼を七十二人のヴァージン(※)のもとへと送り出した。僕が見つめる前で彼は小刻みに震え、そして倒れた。僕の目の前でぴくぴく身体が動いていた。それから僕は燃える家の中に飛び込んで彼を引きずり出した。万一まだ息がある場合に備えてのことだ。再び戻り、次に彼の家族を引っ張り出した。

すべてが終わったあと、僕が本当に戸惑いを覚えたのは(その渦中では何も考えていなかった。ただ動き、身体で反応していただけだ)、自分が何も感じていないということだった。涙も出ない、ため息も出ない。憂鬱すら感じない。嬉しい気分にもなっていなかった。完全に感覚も感情も抜け落ちていて、そのことがものすごくひっかかっていた。

                                          (抜粋)

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時には、引き金を引かないことのほうが難しい。

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CounterColumn」のジェイソン・ヴァン・スティーンウィック中尉は、「決断の分析」というタイトルで、リーダーが下さなくてはいけない選択――生かすか殺すか――について綴っています。ある日彼は、頭に赤いスカーフを巻き、銃床のないAK四七を肩にかけている男を見つけました。

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警察官や警備員であれば軍用武器を携帯できるが、この男にはそう特定できる要素がなかった。頭にスカーフを巻いている警察官も、僕はこれまで見たことがない。男は僕たちから遠ざかろうとしていた。背中をこちらに向けているから、差し当たり彼本人に警戒はいらない。

僕が咄嗟に思ったのは、ハンヴィーから飛びおりて「キフ!」(「止まれ!」)と叫び、男を捕まえることだった。だが通信手段のない車でそれはまずい。僕が飛びおりたら後ろの二台は停まるだろうが、残りの車はそのまま行ってしまうだろうから、装甲ハンヴィー一台に僕と救急隊員と牧師だけがとり残される。喧嘩を始めようというときに、それだけの戦力では心もとない。男の仲間がどこかに隠れていて、脇から撃たれるかもしれないという心配もあった。もしも男が「アリババ」――イラク人は反体制勢力をそう呼ぶ――だとすれば、単独行動はしないだろう。

次に頭に浮かんだのは、この場で彼を撃ち殺すということだった。群集のど真ん中で。駄目だ、それもまた愚かな考えというものだ。狙いが定まらない。左手で撃たなくてはいけないだろうし、今は揺れ動く車の中だ。しかも男は市場のすぐ脇にいる。周りには子供がいるし、発砲すればほかの全員が同じ方向へ向かってがんがん撃ち出すかもしれず、そうなればファルージャの二の舞だ。

結局、そのまま男を行かせることにした。僕たちは何の行動もとらなかった。
男に気づいてからその判断を下すまでの時間は、五秒もなかっただろう。

あとで僕は、後ろの席にいたNCOに話をした。「どうなんだろう……もしかしたらあの場で彼を射殺するべきだったのかもしれない」。その言葉をどこまで本気で考えていたのか、自分でもよくわからない。だがそのNCOは言った。「まさか。子供じゃないんですよ。そりゃどっかの馬鹿なガキのやることでしょう。そんなことをしたら大量虐殺が始まっていましたよ。全員一斉に同じ方角に発砲し始めたでしょうからね」

彼の言うとおりだ。
その後、その男はいつもその交差の警備に就いているイラク人だとわかった。彼はそれとわかるアームバンドをしていたが、コートで隠れて見えなかったのだ。
今回は不殺生を選んだことが正しい判断だったわけだ。
今回はね。
                                 (抜粋)

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イラク初の民主選挙で・・

☆産経新聞6/25に書評が掲載されました!☆
書評全文はこちら


◆まずはこちらから↓↓↓
第1回:ミリタリー・ブログとは?
第2回:良くも悪くも、ここにあるのは「本音」だ
第3回:プロローグ
第一章 龍を討ちに行く者たち
第4回:戸惑いと不安、そして興奮
第5回:愛する人へ
第二章 戦地の生活
第6回:前線作戦基地(FOB)
第三章 癒しを与える者たち
第7回:戦闘救命員(CLS)
第8回:従軍牧師の役割


第四章 リーダーたる者

戦いに参加しているリーダーは皆、多くの決断を下さなくてはなりません。その時点ではちょっとした判断にすぎないと思えるものでも、最終的には生死を分けることになるばかりか、戦争全体の結果にも影響を及ぼす可能性があり、戦闘においてリーダーシップを執ることは、この世でもっとも過酷で、もっとも孤独な任務といえるでしょう。だけど同時に、もっともやりがいのある任務でもあるのです。

イラクでヘリボーン歩兵中隊の指揮を執り、イラク初の民主選挙に立ち会ったダニエル・ブート大尉のブログ「365 and a Wakeup」には、民主制度が誕生する瞬間の様子が描かれています。

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投票所が開くと、途切れることなくイラク市民が入ってきた。自動車爆弾を防ぐため車で来ることは禁止されていたので、みんな徒歩だ。野原を横切り、椰子の林を抜け、がらんとした道路を少人数ずつまとまってやってくる。みんな笑顔を浮かべ、僕たちが監視に立っているのに気づくとさらに明るい笑顔になってこちらに手を振る。のんびり歩いてくる彼らそれぞれのグループに共通するのは、同じ目的を持つということだけだ。伝統的なディシュカを身につけ、アラビアの昔話からそのまま抜け出してきたような人もいる。西洋の服を着こなし、アメリカのビジネス界に溶け込めそうな人もいる。はたまたジーンズにサンダル、派手なアメリカのTシャツという格好の人もいた。老人が息子たちと一緒に歩いている。母親は子供連れで来ていた。友達同士、肩で風切って、楽しげに喋っているグループもいる。

そんなふうに、切れ目なく続く人の波を眺めるうちに午前中が過ぎていった。投票所に入っていった人たちは、やがて笑顔で出てきて、インクのついた親指を掲げて見せる。会場周辺一帯が、何キロも離れたところから一票を投じるためにやってきた人々で沸き返っていた。やがて太陽が頂点に達し、焼けつくような日差しを浴び始めたころ、イラク兵のひとりが深刻な表情で駆け寄ってきた。彼は息もつかずに何かまくし立て、ついてくるようにと盛んに手ぶりをする。僕は何人か兵士を連れ、投票所から二、三百メートルほど離れたコンクリート塀まで一緒に行った。そこには不安げな様子のイラク兵たちが集まっていた。実を言えば僕はそこに行くまで、もっと氷が欲しいとか、何かその手の物質的な要求をされるものと思っていた。だから彼らの訴えを聞いて驚き、下衆の勘ぐりに近いことをした自分が恥ずかしくなった。彼らが僕を呼び出した理由は、投票所で係員のひとりが選挙民に圧力をかけようとしていると心配してのことだった。状況を説明する彼らの瞳は熱意に輝き、声は高ぶって震えていた。自由で公平な選挙を行いたいという意気に燃えるこの兵士たちを見たとき、僕は生まれたばかりの民主主義をイラクの人たちがどれほど必死に守ろうとしているか、初めて本当の意味で理解した。イラク警察官をひとり呼び、問題の係員と監督官を連れてきてもらった。ふたりが現れると、兵士らは一斉に声を上げて責め立てた。僕は少し黙っているように手で合図し、みんなが静かになると、中立の立場を保つことがどんなに重要であるかを監督官に説明した。係員はうつむき、明らかに自分を恥じているようだった。監督官はスタッフの行動にしっかり目を配ると約束した。そしてふたりは投票所に戻っていき、兵士たちは僕の即席の民主主義訓話で、熱の入りすぎた係員が当面おとなしくなり、公平な態度をとってくれると安心したらしかった。
                                   (抜粋)
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従軍牧師の役割

☆続いて、本日発売の「週刊読書人」6/29号に、書評が掲載されました!☆


◆まずはこちらから↓↓↓
第1回:ミリタリー・ブログとは?
第2回:良くも悪くも、ここにあるのは「本音」だ
第3回:プロローグ
第一章 龍を討ちに行く者たち
第4回:戸惑いと不安、そして興奮
第5回:愛する人へ
第二章 戦地の生活
第6回:前線作戦基地(FOB)
第三章 癒しを与える者たち
第7回:戦闘救命員(CLS)


「従軍牧師」と聞いて、どのような牧師を思い浮かべるでしょう。
民間牧師とは違って彼らは、兵士たちに精神的な導きを与える任務だけでなく、参謀将校として司令官に助言をする任務も帯びています。

従軍牧師のブラッド・ルイス(大尉)は、「Training for Eternity」の中で、戦闘に出発する前の晩に兵士たちに祈りを捧げて回ったあとに訪れる、彼自身の精神の戦いについて書いています。

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そのあと、戦場の牧師にとって何より困難な時が訪れます。進軍の音が遠ざかり、夜の闇が遺体袋のように帳をおろすころ、私はほとんどの人が経験することのないであろう苦しみの中にひとり、とり残されるのです。私との戦い、私の信仰との戦いです。自分個人の戦いであり、心と魂の、結末のない戦いなのです。ひとり暗闇で私は祈ります。自分の役割を満足に果たせていますように。私の祈りが届いて、私の息子たちが無事に戻ってこられますようにと。私の祈りに熱意や誠意が足りなかったら、あるいは短すぎたら、誰かが今夜死んでしまうことになるのではないか? 私はふさわしい文句を使っただろうか、ふさわしい振る舞いをしただろうか? 私の行ったことのために誰かが何かを失うことになったりしたら? それが従軍牧師の心の戦いです。ほぼ毎晩戦っているのです。これほどの重みには、地球を支えるアトラス(※)だって押しつぶされてしまうでしょう。

そのようにして問いかけ、悩み、命の重みに耐え切れなくなりそうなとき、その闇をまっすぐに貫いて、神からひとつのシンプルな答えがもたらされるのです。私は自分の役割を果たしたのだ、もう心を穏やかにして、神に任せればいいのだ、と。私は牧師であり、神ではない。そして私は、彼らが戻ってくるまでのあいだ、絶えず無線に耳を傾けて祈り続けます。私の兵士の命と魂のために、神が素晴らしい御業をもたらしてくれるはずだと信じて。

このように、私の勤めはもっとも困難なものではないかもしれませんが、やはり苦しいものではあるのです。息子たちと一緒に戦いに赴きはしなくとも、私が彼らのために戦っていることは間違いありません。そして私たちは肉体的にも精神的にも戦い続けます。この闘争が終わり、戦争に勝利を収めるまで。そのとき私たちは家族の笑顔が待つ故郷に戻ることができるでしょう。そしてそのとき神は審判を下されるのです。

※アトラス
ギリシャ神話に登場する、天空を支える巨人神。

                                   (抜粋)
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一昨日、改正イラク特措法が成立し、航空自衛隊の輸送活動の期限が2年間延長されました。イラクから撤退する国が多い中、日本がアメリカの支援を継続する決断を下したことについては、どんな理由があるにせよ残念な思いでいっぱいです。

私たち日本人は、ほとんどが戦争を知りません。少しでも戦争を身近に感じ、真摯に考えられるよう、この本が役に立てばと心より祈ります。

牧師さまも祈ってくれていますように・・


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紹介御礼!

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月刊ビデオサロン(玄光社)と
ミリタリーブログの総合サイト、その名も「ミリタリーブログ」で
ブログ・オブ・ウォー 僕たちのイラク・アフガニスタン戦争』が紹介されました☆

ありがとうございます~!

戦闘救命員(CLS)

◆まずはこちらから↓↓↓
第1回:ミリタリー・ブログとは?
第2回:良くも悪くも、ここにあるのは「本音」だ
第3回:プロローグ
第一章 龍を討ちに行く者たち
第4回:戸惑いと不安、そして興奮
第5回:愛する人へ
第二章 戦地の生活
第6回:前線作戦基地(FOB)


第三章 癒しを与える者たち

ここには、医師、看護師、衛生兵、戦闘救命員、従軍牧師など、戦場や手術室で、人の命を救うために戦っている兵士たちのブログが収録されています。

陸軍特技兵のニック・カデマートリーは、戦闘救命員(※CLS)として戦闘中に自分の所属部隊の救命に当たりました。彼は、救護ヘリに負傷者を引き渡し、重責から解放された瞬間の感情を、自身のブログに吐露しています。

※CLS
通常の兵士よりは救急治療の訓練を積んでいるけれど、衛生兵ほどの進んだ訓練までは受けていない兵士のこと。

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「大丈夫。銃座につく」と僕は言った。
すごく腹が立っていた。彼に飲ませた水のボトルを蹴飛ばす。それを見ても、誰も何も言わなかった。僕は泣きそうになっていた。ああ僕は平気だ。
びりびりになったあいつの戦闘服を掻き集めてハンヴィーに放り込む。どこが平気なんだよ。戦闘服は血に染まっていた。
平気なわけねえだろう。
めちゃくちゃだ、何もかも最悪だ、最悪だ、ちきしょう。
ラマダンなんかクソだ、自爆テロもクソ喰らえだ。クソだ、クソだ、みんなクソだ。

僕は銃座に向かった。少し考える時間が欲しかった。銃座についていれば、泣き出したとしてもまともに顔を見られないで済む。銃座に座った。こうしていれば、もしチャンスが飛び込んできたら、もし指示が入ったら、可能なかぎりの、最大最悪の損害を与えてやれる。銃をぶっ放して、自分がすっきりしたいんだ。

だけどそんなチャンスは巡ってこなかった。誰かに償わせたい。あいつはまだ二十歳で、もっと若い恋人だっているのに。
たぶんあいつは、もう二度と目が見えなくなるんだ。
何で僕はあの場に居合わせてしまったんだ。
ああするべきじゃなかった、こうすればよかったということがあまりにたくさんありすぎる。
僕の手を握りしめていた彼の手、それを思うと胸が張り裂けそうだった。
僕は駄目だ、最低だ。

そしてようやく僕は自分の狭い兵舎に戻る。僕は無事だ、一応。
部隊の人たちみんなが、階級のいちばん上からいちばん下まで、「よくやった」と声をかけてきて、褒章(僕にだ)がどうのという話をする。僕が今考えられることといえば、自分がどこかでへまをして、そのせいで彼が苦しんでいるということだけなのに。どこでどうへまをしたのかはわからない、だけど間違いなく僕はどじを踏んだんだ。僕は平気じゃない。だけどおかしくなってもいない。僕はまだここにいる。まだ完全にもとに戻ってはいないけど……でもぼろぼろになってもいない。物事を単純にしておいてくれないか、僕が何も考えず戦いに出ていけるように。こんなことに負けず、この仕返しができるように。ほとんどの兵士はお国のために戦ってなんかいない。金のための戦いも、神のための戦いも存在しない。お互いみんなのために戦っているだけだ。なぜなら、僕らはこのクソ溜めに一緒に放り込まれた仲間だから。

僕は今の僕にとっていちばん家庭に近い場所に戻った。あいつは大丈夫だよ、とみんな言う。助かるさ。ドイツに行けるよ。また見えるようになるって。あいつの両目と鼻の横には爆弾の破片が突き刺さっていた。僕がやったことがすべて正しかったのかどうかわからない。だけど少なくとも、命はとりとめた。でも褒章となると、どうなんだろう。そんなこと言われてもどう答えればいいのかわからない。そんな称賛には実際耐えられないような気がする。耐えられない……なんだかよくわからないよ。とにかく身体を動かしていなきゃ駄目だ。これから何日かは、そうやって身体を休ませずにいようと思う。自分の頭の中をきちんと整理するために。
でも今は……今はシャワーを浴びて眠るのがいちばんだろう。

                                         (抜粋)


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マシュー・カリアー・バーデン


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前線作戦基地(FOB)

◆まずはこちらから↓↓↓
第1回:ミリタリー・ブログとは?
第2回:良くも悪くも、ここにあるのは「本音」だ
第3回:プロローグ
第一章 龍を討ちに行く者たち
第4回:戸惑いと不安、そして興奮
第5回:愛する人へ


第二章 戦地の生活

戦地では、前線作戦基地(FOB)が兵士たちの生活拠点となります。
「基地」といっても、最近ではトレーニングジムや食堂、レクリエーション広場、映画館なども完備した、大規模で快適なFOBも登場しているようです。

テイラー・アレン・スミスは、ブログ「American at Heart」で、FOBでの様子を教えてくれています。
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さてFOBとは何か? まずこれは前線作戦基地(Forward Operating Base)の略だ。いろんなものが集まった場所で、どのFOBにいるかによって、そこでの生活はかなり違ってくる。僕のいるFOBはかなり快適だ。130平方キロメートルくらいの広さ。かなり大きい。大きな空港もあり、食堂(DFAC)も広くて、兵隊も多い。ここには陸軍と空軍両方の人員がいて、別々だが同等だ。陸軍のジムも空軍のジムもある。販売部(PX)には何でもあり、生鮮食品、スナック、服や靴、衛生品、雑誌に本、DVD、電気製品、ビデオゲーム、ちょっとした器械など、必要になりそうなものはまず間違いなく揃う。基地内では外国人がマッサージ・サロンや美容院に床屋、絨毯の店とか、様々な店を出している。月に一度は、「バザール」と呼ばれるものが開かれる。この言葉が正確に意味するところはよくわからないけど、とにかくこの日は現地のイラク人が市場の品物を売りに来るのだ。まさしくどんなものでもすべて並んでいる。DFACに飽きたらバーガーキングやピザハットもある。

休日、すごく暑いと、僕たちはプールに寄る。そうなんだよ、ここにはプールもあるんだ。殺菌されているからきれいだ。週に一回くらいは泳ぐ。短時間でもプールで遊んでると、「ほぼ」民間人に戻った気分になれる。ここではみんな、とんでもなく馬鹿なことをやって、自分たちが人間だということを忘れないようにしているんだ。僕とルームメイトのひとりは"Old Navy"のスウェットパンツを持っていて、部屋ではしょっちゅうそれを穿いてる。僕は野球帽を被るのも好きだ。そうやって、ケブラーのヘルメットを着用すべきだってことを忘れていたいんだ。そういうちょっとしたことのおかげで正気を保っていられるんだよ。
(抜粋)

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愛する人へ

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第一章 龍を討ちに行く者たち
第4回:戸惑いと不安、そして興奮


派兵期間は最長で18ヶ月。
召集を受けた兵士たちは、出発までのわずかな時間に、家族や恋人、友人たちと挨拶を交わし、別れを惜しみます。


ジェイ・ツァーガ(カイレスティス)「Makaha Surf Report」
「ジャン、愛する妻、ぼくの命。誰よりも君がいちばん辛いはずだ。これで三度目だね。イラクに行ってもぼくには何も悪いことは起きない、無理にでもそう信じてくれって、また君に頼むことになってしまった。三度もぼくは君と猫と犬たちを置きざりにして、わずかでも世界を良くすることが自分にもできるなんていうドン・キホーテまがいの信念を追いかけようとしている。三度も君にやりくりを任せ、家の中のことから何から、たったひとりの人間に背負わせてはいけないようなことまで押しつけて。結婚記念日の七回のうち三回も君をひとりにしてしまったのも、ぼくがこういうことに自分を捧げてしまったからだ。君にはとにかく感謝の言葉しかない、ありがとう! ぼくは永遠に君を愛し続ける――。」


サラ・エリザベス・ウォルター「Trying to Grok
「私は縫い物に追われ、夫は荷物を詰めてはとり出して詰めなおし、そこらじゅうにいろんなものを放り出しながら、14ヶ月分の持ち物をダッフルバッグひとつとリュックサックひとつにどうやったら詰め込めるのかと必死に考えていた。ベッドに入るときは悲しかったけれど、明日の朝起きるときには強い気持ちでいようと約束し合った。

夫は朝4時半に集合だが、私は8時まで行く必要がない。着替えて部屋に戻ってきた彼が行ってきますのキスをしてくれたとき、腿にピストルのホルスターがあるのを見て、これは現実なのだと思った。彼が出ていったあと、もう一度起きて支度をしようとしたとき、彼はこの先一年以上も帰ってこないのだと改めて思った。彼の汚れた服を、いつまでベッドルームの床に置きっ放しにしておけるだろう? いつになったら、リュックに入り切らなかった茶色のTシャツや日焼け止めをすべて片づける気になれるんだろう――?」

                                        (抜粋)


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戸惑いと不安、そして興奮

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第2回:良くも悪くも、ここにあるのは「本音」だ
第3回:プロローグ


第一章 龍を討ちに行く者たち

この章には、動員がかけられた直後から戦地へ赴くまでのあいだに投稿された、7つのブログが収められています。まずは、召集を告げられた瞬間の心情をつづった、スコット・ケーニッグ海軍予備役大尉のブログ「Citizen Smash―the Indepundit」から、その一部をご紹介しましょう。

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ひとりがようやく口を開き、全員が知りたいことを訊ねた。
「我々の行く先はどこですか?」
「それは答えられない」
全員、頭の中では、いつかこういうことになるとわかっていた。1年前のあの恐ろしい火曜の朝(※9.11ニューヨーク同時多発テロ)以来、僕らはその言葉を待っていたとも言える。教練はすべて、そのいつかのために備えてきたものだ。書類上の準備はできていた。だが本当の意味でその日のための準備などできるわけがない。戦闘に巻き込まれる可能性のある場所へ自分が送られると知らされる日が、実際に訪れるなんて。

現実を突きつけられた瞬間ではあったけれど、同時に沸き立つような感覚も覚えた。当然これからの数ヶ月が楽しいはずはない。妻や家族や友達から切り離されるのは、嬉しくはない。実際に仲間の何人かが戻ってこられないかもしれないと思うと不安でもあった。いざ戦争となれば、辛いこと、悲しいことが必ずつきまとい、そして多くの人の命が失われる――僕にとってとてつもなく大事な人たちも、その中に含まれるかもしれない。

そうわかっていても、僕は少しわくわくしていた。これはいつもの演習とは違う。ありふれた航海訓練ではないのだ。僕らは任務を帯びている。長いあいだ、きつい訓練を続けてきたその成果を、今こそ見せるのだ。それに、これはつまり、忌まわしい独裁者をこの世界から排除する手助けができるということではないか。

                                            (抜粋)

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プロローグ

第1回:ミリタリー・ブログとは?
第2回:良くも悪くも、ここにあるのは「本音」だ


「六月三日火曜日、僕がオフィスで仕事をしているとデスクの電話が鳴った。
ジョンからだった。僕とマット・シュラムの共通の友人である。僕たち三人は何年も前に軍で知り合い、それ以来ずっと連絡をとり合っていた。ジョンは僕に、ちゃんと座って聞いてくれと言った。それから、マットがイラクで死んだと言った。その瞬間の衝撃から我に返ると、僕は最後まで話を聞き、ジョンの奥さんのパティと一緒にマットの葬儀に出ると約束した。ジョンは特殊作戦本部を空けられないため葬儀には出席できなかった。

電話を切ると僕はオフィスのドアを閉め、もう一度椅子に腰をおろし、そして泣いた。
葬儀のとき、マットから届いた最後の手紙やEメールを遺族が見せてくれた。思ったとおり、どれも力強く前向きなメッセージだった。自分のしていることは正しいとマットは信じていた――イラクをサダム・フセインの手から解放するのだと。

シュラム少佐の部隊には取材記者を乗せた車が続いていた。銃撃戦が始まるなり記者の車はUターンし、死に物狂いで逃げ出した。マットが敵にぶつかっていかなかったら、記者も運転手も生きて帰れはしなかっただろう。だがその記者は、僕の素晴らしい友人マットのことを、彼の命の恩人のことを、いっさい記事にはしなかった。それは「ニュース」ではないからだ。

僕はこの出来事をこのままにしておいていいのかと数週間考えた。こういうことが起きたと僕は知っている。世間に知らせるべきではないのか、と思った。そして六月十八日、僕は「Blackfive」というブログを始めた。」
                                            (抜粋)


バーデン氏がBlackfiveを開設したのは2003年6月18日。兵士のインターネット・アクセスは士気高揚につながる、と考えられていた時代です。その後は次第に機密の漏えいが問題視されるようになり、ついに2005年半ば、軍上層部は作戦保全(OPSEC)規定を修正、安全保障上の理由からブログを検閲し、制限を加えることを決定しました。主に2003年から2005年に投稿されたブログが収録されている本書は、兵士たちの「本音」を知る貴重な資料と言えます。


マシュー・カリアー・バーデン(Matthew Currier Burden)
17歳で入隊し、2001年7月にアメリカ陸軍予備役少佐の階級で退役。国防情報局情報分遣隊副司令官として加わった最後の任務で、彼の部隊は軍事情報の収集・分析手法を改革した功績を認められ、統合勲功部隊感状を授与されている。シカゴ大学で理学修士(コンピュータ科学)取得、学部賞受賞。イラクで友人を失ったバーデンは、「テロとの戦い」に向かった兵士たちを支援しつつ彼らの物語を伝えようと、2003年半ばBlackfiveを開設。Blackfiveはたちまち人気ブログとなり、多くの人に読まれ、リンクに加えられるようになった。全米ブログ・アウォードではベスト・ミリタリー・ブログ賞を3年連続で受賞している。


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良くも悪くも、ここにあるのは「本音」だ

第1回:ミリタリー・ブログとは?


「良くも悪くも、ここにあるのは「本音」だ。そして著者が強調するように、ニュースでは伝えられない、だがニュースよりも速く伝わる、現場の生の声である。ブロガーたちには政治家の詭弁も評論家の視点も要らない。彼らはただ、実際に自分が目にしたものを、実際に身体で体験したものを語る。地べたに立つ彼らに見えるのは自分たちの周辺だけだ。そこには笑える日常もあり、そして重たい真実も混じっている。」


これは、訳者さんが書いてくださった「あとがき」の、最初のパラグラフ。
この本のメッセージは、まさにこのパラグラフに凝縮されています。
アメリカは正しいと信じ、イラクの人々をフセインの手から解放するのだと正義に燃えて出征するも、生々しい戦場を体感し、やがて「戦争は戦争でしかない」と悟り、大義を見失っていく兵士たち。「派兵が決まってから帰還するまで」にわたる、兵士たちの、そして家族や恋人たちの心情が、ここには赤裸々に綴られているのです。ブログという誰でも即時に発信できる媒体だからこそ、とてもリアルに。

収録されている63のエピソードは、出身も経歴も異なるミルブロガーたちの手によってばらばらに描かれたものです(複数回登場している場合もあり、計57人)。しかしながら目次をご覧いただければお分かりのとおり、出征→戦地の生活→帰還という流れでまとめられているせいか、この本はまるで一本の群像劇のよう。読み終わると兵士たちとともに歩んできたような、不思議な感覚に見舞われます。


<目次>

第一章  龍を討ちに行く者たち
第二章  戦地の生活
第三章  癒しを与える者たち
第四章  リーダーたる者
第五章  戦士たち
第六章  銃後を守る英雄たち
第七章  帰らぬ者
第八章  帰郷


次回はいよいよ、プロローグ。
編著者マシュー・カリアー・バーデンが、なぜBlackfiveを始めたのか。
それは、親しい友人の死がきっかけでした。


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ミリタリー・ブログとは?

こんにちは、編集部です。

ブログ・オブ・ウォー 僕たちのイラク・アフガニスタン戦争』が発売されてはや数日。お蔭様で続々と追加注文をいただき、好調な滑り出しを見せています! この場を借りまして、心より御礼申し上げます。

とはいえ、当然まだ手に取っていない方々もいらっしゃるでしょうから、これからここで本書の内容をちょっとだけご紹介していこうと思います。少しでも興味を持ってくださっている方、どうか楽しみにお付き合いくださいませ。

まずは手始めとして、「ミリタリー・ブログ」という言葉から。
やや耳慣れないかもしれませんが、ミリタリー・ブログとは、その名前のとおり軍事関係のブログ全般を言います。ミサイルや兵器を紹介する武器百科のようなブログにくわえ、テクノロジーが発達した現代では、実際に戦場にいる兵士たち自身がブログを開設し、自分たちが見たもの体験したものをその場から即時に発信するようになりました。家族や恋人と連絡をとり合うにもリアルタイムで交信できるブログは最適と、多くの兵士が活用しているわけです。

個人のブログを紹介するマスターブログも登場しています。
とりわけ、全米「ブログ・アウォード」ベスト・ミリタリー・ブログ賞を3年連続で受賞したほどの人気を誇っているマスターブログが「Blackfive」。そのBlackfiveに寄せられた多数のブログから63のエピソードを厳選して抽出し、編纂したものが本書です。

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内容紹介

弊社の新刊『ブログ・オブ・ウォー 僕たちのイラク・アフガニスタン戦争』について、少しずつ内容をご紹介してまいります。

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『ブログ・オブ・ウォー 僕たちのイラク・アフガニスタン戦争』 近日発売!

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発売日:5月22日
価格:1,900円(本体)

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